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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)169号 判決

原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。

原告の主張するところは、補正後の本願発明(以下、便宜上、単に「本願発明」という。)と先願発明とを同一の発明であるとした審決の判断は誤りである、というのである。

本願発明及び先願発明の各要旨がそれぞれ審決認定のとおりであること、右両発明を比較すると審決認定の(1)及び(2)の点で相違し、その他の構成では差異がないことは原告の自認するところである。そして、右相違点のうち(2)に対する審決の認定判断については原告もこれを明らかに争つていない。(したがつて、本件訴訟の中心的な争点は、右相違点(1)に対する審決の認定判断に誤りがあるか否かということになる。)

原告は、先願発明の回転磁気ヘツド装置は、従来技術と同じく、円筒状磁気テープ案内体3に近接して一対の案内子41、41´(規制ガイド)を設けることを前提としており、一対の磁気テープ案内子26、26´はかかる回転磁気ヘツド装置の磁気テープ案内体3と一対の案内子41、41´とに、磁気テープを装架するために設けられただけのものであり、規制ガイドとしての機能を有しないものであるのに対し、本願発明においては、一対のテープ案内は、磁気テープを円筒状テープ案内に装着した後の位置において、磁気テープを円筒状テープ案内の軸方向及び一八〇度以上の所定の纒周角度に規定するテープ案内としての位置に固定されるよう構成されており(相違点(1))、従来技術の規制ガイド自身を一対のテープ案内11、12として、これを他の位置にも回動できるようにして、磁気テープの円筒状テープ案内9への自動装架のための素子とすると共に、装架後は、本来の規制ガイドの位置において規制ガイドとしての機能をも奏するようにしたものである、と主張する。

そこで、先願発明についてみるに、成立に争いのない甲第二号証(先願発明の特許公報)によれば、先願発明の「発明の詳細な説明」には、

「本発明は、磁気テープが磁気テープ案内体の前方部に対向して配されるのみにて、これが自動的に案内体に対して斜めに添うように構成した磁気テープ装架装置を得んとするものである。」(第二欄第七行~第一〇行)、

「本発明によれば、自動的に磁気テープを回転磁気ヘツド装置の磁気テープ案内体に沿わせることができるので、この種装置において面倒とされていた磁気テープの装架が極めて簡便化され、図示説明せるごとく、カートリツジの使用により、装置全体をその左右の幅が極めて縮減されることにより小型化しうるものである。」(第七欄第一一行~第一七行)

との記載があることが認められるのであつて、これらの記載によれば、先願発明は、磁気テープが回転磁気ヘツド装置の磁気テープ案内体の前方部に対向して配されるのみで、これを自動的に案内体に対して斜めに沿わせて装架するように構成した回転磁気ヘツド装置への磁気テープ装架装置にかかるものであり(右装架の際、磁気テープを磁気テープ案内体に対し、少なくとも一八〇度の範囲に亘つて斜めに装架することは、この種二個の回転磁気ヘツドを有するヘリカルスキヤン型VTRにおいては、先願発明の特許出願前すでに当然な周知の技術的事項であると認められる。――成立に争いのない甲第五号証)、磁気テープを磁気テープ案内体に沿わせて装架するための一対の磁気テープ案内子26、26´を有し、これを二つの位置(装架前の位置と装架後の位置)に回動するようにしたことを構成要件としていることが認められる(甲第二号証の特許請求の範囲第二項)。

そこで、先願発明における右「一対の磁気テープ案内子26、26´」と本願発明における「一対のテープ案内11、12」とを比較すると、両者は、磁気テープを磁気テープ案内体(円筒状テープ案内)に斜めに沿わせて装架するための二つの位置に回動する磁気テープ装架案内である点において一致している。

他方、本願発明における一対のテープ案内11、12の、磁気テープ装架後の移動位置は、「磁気テープを円筒状テープ案内の軸方向及び一八〇度以上の所定の纒周角度に規定するテープ案内としての位置」とされているのに対し、前掲甲第二号証によれば、そこに図示された先願発明の実施例における回転磁気ヘツド装置には、磁気テープ案内体3の後方左右側部にそれぞれ案内子41、41´が設けられており、磁気テープを磁気テープ案内子26、26´によつて案内体3の外周面に沿つて斜めに装架する場合、その纒周角度が右案内子41、41´によつて規制されるようになつていることが認められる。

しかしながら、先願発明は、右一対の案内子41、41´を必須要件とはしていないものである(先願発明の要旨が審決認定のとおりであることは原告の自認しているところである。)。そして、先願発明が回転磁気ヘツド装置への磁気テープ装架装置であることは当事者間に争いがないのであるから、この先願発明においては、一対の磁気テープ案内子26、26´が磁気テープを磁気テープ案内体3に沿わせて斜めに装架するために、装架前の位置から装架後の位置に回動する磁気テープ装架案内として動作する以上、必ずしも案内子41、41´を設けなくても、磁気テープ案内子26、26自体によつて、磁気テープが案内体3に沿わされる角範囲を規定することができるものと考えられる(この角範囲を厳密に規制するには、実施例に示されているように、案内子41、41を付設する方がよいというに過ぎない。)。

換言すれば、先願発明は、回転磁気ヘツド装置に案内子41、41を設けることを前提としなくても、磁気テープ案内子26、26それ自体によつて、磁気テープを磁気テープ案内体に沿わせて所定の装架をすることができるようにしたものと解せられるのであつて、その際、案内体に対し少なくとも一八〇度の範囲に亘つて斜めに装架することは、既述のとおり、当然な周知技術的事項である。したがつて、先願発明の磁気テープ案内子26、26は、それ自体、前記の角範囲を一八〇度以上の適宜の角度(本願発明における纒周角度をも含む。)に設定しうる作用効果を有しているということができる。

そうすれば、先願発明における「一対の磁気テープ案内子26、26」は、その構成態様、奏する作用効果において、本願発明における「一対のテープ案内11、12」と技術的に同等のものというべく、両者に実質的な差異があるということはできない。

以上のとおりであり、本願発明と先願発明との相違点(1)は、両発明の実質的な差異とはならないのであるから、この点を根拠に両発明が同一の発明ではないという原告の主張は理由がない。

もつとも、審決がこの相違点(1)について、これを「当該技術分野における単なる周知手段の付加に相当するもの」としていることは当事者間に争いのないところである。これは、前示のとおり、右相違点(1)が両発明の実質的な差異とはならないものであるから、本来、「単なる形式的な表現上の差異に過ぎない」とされるべきものであつて、適切ではない。しかしながら、右相違点(1)を「周知手段の付加に相当する」とするのも、これを「形式的な表現上の差異に過ぎない」とするのも、いずれにせよ、本願発明が先願発明と同一の発明であるとの判断が導かれることには変りがないのであるから、審決の結論に影響を及ぼすものではなく、審決を違法とするこの点に関する原告の主張は、理由がない。

以上の次第で、審決の取消を求める原告の主張はすべて理由がないので、本訴請求は失当として棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。

1 本件補正後の本願発明の要旨(傍線部分は補正箇所を示す。)

円筒状テープ案内の周面に沿つて、移送される磁気テープに回転ヘツドにより信号を斜めに記録する方式の磁気記録再生装置の一対のテープ案内、該一対のテープ案内は前記円筒状テープ案内の外周に沿つて互いに逆方向に回動すべく構成され、磁気テープの上記円筒状テープ案内への装着前の状態において、上記円筒状テープ案内と磁気テープを挟んで対峙しており、磁気テープを上記円筒状テープ案内に装着する際には磁気テープ装架案内として動作し、磁気テープ装着後の位置において、前記磁気テープを上記円筒状テープ案内の軸方向及び一八〇度以上の所定の纒周角度に規定するテープ案内としての位置に固定されるよう構成され、前記磁気テープを上記円筒状テープ案内に装着する際、磁気テープ装架路中の磁気テープ定速移送装置を回避せしむべく構成し、装着後復帰せしむべく構成した磁気記録再生装置のテープ案内装置。

2 本件補正前の本願発明の要旨

円筒状テープ案内の周面に沿つて、移送される磁気テープに回転ヘツドにより信号を斜めに記録する方式の磁気記録再生装置の一対のテープ案内、該一対のテープ案内は、磁気テープの前記円筒状テープ案内への装着前の状態において、上記円筒状テープ案内と磁気テープを挟んで対峙し、磁気テープ装着後の位置において磁気テープを上記円筒状テープ案内に纒周案内せしめる位置に回動するよう構成された磁気記録再生装置のテープ案内装置。

審決の理由の要点

1 本件補正後の本願発明は、特願昭四一―八五四四二号原出願から特許法第四四条第一項の規定により分割して出願された特願昭四四―七二五四二号(特公昭四九―四四一七七号、特許第七八〇九〇二号)出願に係る第二番目の発明(以下これを「先願発明」という。)と、同一と認められるので、先願発明の後願発明となり、特許法第三九条第一項の規定により、出願の際独立して特許を受けることができないものである。したがつて、本件補正は、特許法第六四条第二項の規定により準用する同法第一二六条第三項の規定に違反するものとして却下すべきである。すなわち、

本件補正後の本願発明の要旨は前項1に記載のとおりであるところ、

他方、先願発明の要旨は、「回転磁気ヘツドを内装する磁気テープ案内体に磁気テープを添わせて装架して当該磁気テープに信号を磁気記録し又はこれより再生するようにされた回転磁気ヘツド装置において、上記磁気テープを上記磁気テープ案内体に添わせて装架するための一対の磁気テープ案内子を有し、該一対の磁気テープ案内子は上記磁気テープを上記磁気テープ案内体に添わせて装架する前の状態における上記磁気テープ案内体と上記磁気テープを挟んで対向せる位置より上記磁気テープを上記磁気テープ案内体に添わせて装架せる移動位置に回動するようにされたことを特徴とする回転磁気ヘツド装置への磁気テープ装架装置」と認められる。

本件補正後の本願発明と先願発明とを比較すると、

(1) 磁気テープを円筒状テープ案内に装着した後の位置において、補正後の本願発明が、磁気テープを円筒状テープ案内の軸方向及び一八〇度以上の所定の纒周角度に規定するテープ案内としての位置に固定されるように構成したのに対し、先願発明には、特にこのような限定がない、

(2) 補正後の本願発明が、磁気テープを円筒状テープ案内に装着する際、磁気テープ装架路中の磁気テープ定速移送装置を回避するように構成し、装着後は復帰するように構成したのに対し、先願発明は、このような構成を備えていない、

との二点で相違し、その他の構成では、実質上格別の差異はない。

右の相違点について検討するに、本件補正後の本願発明における右(1)(2)の構成は、発明の目的、効果を勘案すると、格別の技術的意味を認めることができないばかりか、磁気記録再生装置で磁気テープを円筒状テープ案内に一八〇度以上の角度で纒周させること、及び磁気テープをキヤプスタンに接離させる際ピンチローラーを起伏させることが本願発明の特許出願前周知であるから、本件補正後の本願発明における右(1)(2)の構成は、いずれも当該技術分野における単なる周知手段の付加に相当するものと認められる。

したがつて、本件補正後の本願発明は、全体として、先願発明と同一と認められるので、先願発明の後願発明となり、特許法第三九条第一項の規定により、出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2 以上のように、本件補正は特許法第六四条第二項の規定により準用する同法第一二六条第三項の規定に違反するものとして却下すべきものであるから、本願発明の要旨は、本件補正前の明細書及び図面に基づいて認定すべく、このようにして認定すべき本願発明の要旨は、前項2に記載のとおりのものである。

ところで、前記した「本件補正後の本願発明」は、右本願発明の要旨(すなわち、前項2の「本件補正前の本願発明の要旨)とする構成に、本願発明の特許出願前周知の技術である前記(1)(2)の構成を単に付加したに過ぎないものと認められるから、結局、本願発明も特願昭四四―七二五四二号発明と同一と認められ、特許法第三九条第一項の規定により、特許を受けることができない。

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